第1章 エジプト紀行 04

 

鰐(ワニ)神を奉るコムオンボ神殿

 アブシンベル神殿とフィラエ神殿を訪問した後に始まったのがナイル川のアスワンから下流のルクソールへ向かうクルーズです。ナイル川のクルーズと言えば英国の推理作家アガサ・クリスティーの「ナイルに死す」という作品が有名で、この映画の影響でとてもワクワクしていたことを思い出します。私たちのクルーズ船は映画の撮影で使われたような古い型のクルーズ船ではなく、その当時では近代的な作りで、アスワンからコムオンボ、エドフ、そしてルクソールという順番でナイル川を下るという行程です。

 コム・オンボ神殿は古代エジプト第18王朝6代目のファラオ、トトメス3世によって建立されたとされ、頭がワニのセベク神と、隼の頭のハロエリス神を奉った神殿です。

 セベク神というのは、豊穣の神さまで、女神ハトホルとコンス神と共に世界を造ったとされる創造神の一人です。ハロエリスというのは、その地域で呼ばれていた天空神ホルスの別名で、コムオンボ神殿の南部はセベク神、北部はホロエリス=ホルスという二人の男性神を同格で奉るという二重の構造になっています。 

 1992年当時の私は神殿の大きさと、想像していたよりも柱や壁画などの鮮烈な色彩、ワニの頭を持つ神様と、その化身のワニを信仰していたという不思議さに眼が点になっただけでした。今でこそ古代エジプトの神々の姿や、それぞれの関係性に関して興味がありますが、その当時は、どうして頭がワニの神様なのかを考えたり、何かに当てはめて推測したりすることなど考えられない状態でした。それほど古代エジプトの神智学というのは、私の中のスピリチュアルな常識の範囲を遥かに超えた領域だったのです。

 曖昧な記憶を思い返してみると、昼間にも関わらず神殿内は薄暗く、神殿の中にワニのミイラが展示されていて、神殿南部の下部には水が入り込んだ池になっていて、そこでワニを飼っていたということくらいです。

 次に下船した場所はアスワンとエスナの間にあるエドフ神殿で、天空神ホルスを奉っていた場所です。この場所から北に5キロほどの場所にはピラミッドの残骸が残っているとされています。エドフのホルス神殿は最も完全に保存されていた古代神殿だとされ、エジプト旧王国時代を皮切りに、新王国時代に建立された小さな神殿を基にして、後のプトレマイオス王朝時代・BCE237年からBCE57年の間にプトレマイオス建築様式で大きく増設されたと解説されています。 

 

▶︎「新王国時代」へ続く