
天空神ホルスの錬金術 黄金ファラオの秘宝 Makaula Nakae

第一章 エジプト紀行
エジプトへの旅
私は然程にエジプトな人でも、昔からエジプトについて執着するほどの興味があったわけはありません。子供の頃からエジプトのピラミッドを観に行ってみたいとは願っていましたが、エジプト=ピラミッド=世界の七不思議の一つというくらいで、誰でも一度は思ったことがある、考えたり、思いを馳せたりしたことがある程度の憧れです。人によっては神秘のピラミッドだけではなく、黄金のファラオ達や、ツタンカーメン少年王、クレオパトラ、シーザーなど歴史的な人物に興味があったりする人もいるでしょう。私は今でこそツタンカーメン王を中心にしたファラオ達の世界観や、古代エジプトの宗教観、芸術的な技術について興味がありますが、1992年当時の私は黄金の少年ファラオでさえ特別な興味を持っていたわけでなく、一度は黄金のマスクなどの発掘品の本物を間近で見たいくらいの感じで、ツタンカーメンの黄金の棺桶や宝石類よりも、ギザのピラミッド群に行って実際にピラミッドの周辺を歩いてみたい、その中に入ったらどんな感じがするのか体験してみたいという気持ちの方が強かったのです。
1991年にペルー旅行へ行ったことが切っ掛けで、翌年の1992年の年明けにはそんな幼少の頃の夢を達成してしまいました。私はペルー旅行で知り合った沢山のお友達と一緒にエジプトの大地を踏んだのです。このツアーでギザのピラミッド、ナイル川のクルーズ、アスワン、ルクソークとカルナック、アブシンベル、サッカラのピラミッドなどの主な観光地に行きました。
その時の正直な感想は、何だか良く理解できないけれど「エジプトという文明は、人間の理解を超えた何かが隠されている不思議なところだ・・・」という程度のものです。
あまりにも想像の域を超えている・・・世界が違い過ぎる巨大なスケール・・・現実味が深く感じられないという不思議な感覚から始まりました。
なぜか自分が夢物語の中の世界に迷い込んだような、感覚が少し麻痺しているかのような違和感も伴っていました。アリスの不思議な国のような違和感に近いもの、自分がとても小さな小人になったかのような感覚です。総ての建造物は見慣れた日本の町並みや建物とは比較にならないほど巨大で、通りや建物の中の空間も大き過ぎると感じる程に広く、そして天井が高いのです。古代の建造物だけでなく、近代に近い建物でさえ、それぞれの回廊や階の天井の高さは比べものにならない程の高さなのです。ペルーの建物でさえ空間のゆとりや天井の高さに驚きましたが、それ以上遥かに頭上に空間があるのですから、自分の大きさを小さく感じるのです。現地の人々が生活している場所や空間を通じた現実的な部分での違いは大きなものでした。
それだけではなく、エジプト滞在期間中で経験した神秘体験というのは、ペルーで感じたものとは大きく方向性が違い、その起きかたも違っていました。私の場合は前年の 1991年のペルーツアーでの体験があまりにも強烈で、エジプトとペルーを比べ過ぎていたのだと思います。ペルーと同じように思考が働かなくなる程の凄い経験や、UFO目撃などが待ち構えているのかも知れないなどという変な期待もありました。とにかくペルー旅行では最初から最後まで連続して色んな神秘体験をしてしまったので、比べるなと言うほうが無理な話しだったのでしょう。
いざエジプトに到着して思ったのは、マチュピチュや聖なる谷とは、完全に違った「砂と砂漠の世界」だということです。ペルーも日本の風景とは違っている異国だと思いましたが、エジプトはさらに超えた砂の異国でした。そしてこの砂の王国というイメージは、最初から最後まで私の中の感覚を混乱させ続けました。目の前にあるエジプトという風景は、砂と砂漠の世界なわけですが、自分の中でその光景に違和感を感じていたのです。その感覚は日本の環境とは違っているという類いのものではなく〈これは昔のエジプトではない・・・〉という別次元の違和感でした。実際に目にしている風景と、感覚を通じて覚えているように思える細胞レベルでの記憶が重ならない、フィットしない、腑に落ちないのです。何となく懐かしいような感じも受ける場所でさえ、その波動が自分の中から浮き上がって来るものと違い過ぎるために、異世界のように感じてしまい、その違和感はどこに行ってもつきまとっていました。現在の砂と砂漠に囲まれている世界は、単に異質な環境というものを大きく飛び越して、「昔はこんな風景ではなかったはずなのに」という思いを味わい続けました。
ではエジプト滞在の中で神秘体験を全く経験しなかったのか? と聴かれれば、それなりに起きました。ペルーに一緒に行った女性は、そこここで泣き崩れていました。しかし彼女が経験したような魂レベルでの深い経験が自分には起きなかったわけです。感覚的には微細な繋がりというか、スピリチュアルに感覚レベルでの認識が起きているのは解っていましたが、違い過ぎて完全な異世界、旅行的に通り過ぎているような感じを強く受けていました。この時の旅行の内容を通じた経験そのものが、ペルー旅行の時ほど強烈ではなく、自分という存在の奥底を深く揺さぶり返されるほど個人的なレベルまで繋がった感じではありませんでした。
エジプトでの神秘体験は、ペルーでの出来事とは違ったスケール、方向性のものだったと思います。降り立った空港から出て荷物を引き上げた時にも、感覚が広がっていくのは感じました。しかしペルーの時と同じような引き寄せられるような強烈さや、良く解らないけど心の中の何かが揺れ始めている、自分の知らない奥底での感情が沸き上がり始めているというものではありませんでした。何か理由は解らないけれど、感覚的にはマッチングが行われている。しかも地上レベルではなく、頭上というか、空中の中をまさぐるように何かを探しているような感じだったと思います。
それから初日に宿泊するホテルへ到着し、その日にホテル内のボールルームでオリエンテーションが行われました。ツアーリーダーの紹介と、参加者たちの自己紹介です。このツアーの参加者はペルー旅行の時よりも人数が多く、参加者だけで50名を超えていました。50人もの人々が一人ずつ交代で手短かに自己紹介をするという具合で進んでいったのですが、この時に予想もしていなかったエジプトで最初の神秘体験が現れたのです。