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死者の守り神 魔法の女神イシス


イシスという呼び名は古代ギリシャ語で、元々のエジプト語での発音はアセトまたはイセトで、英語圏ではアイシスと呼ばれ、エジプトよりもグレコローマン圏で広く信仰されていた女神です。


名前の意味はファラオにとっての力を象徴する〝玉座〟です。擬人化された女神は頭の上に縦型の玉座を乗せて赤い鉢巻きをし、右手に花のついた杖と、左手にアンクを持った姿で描かれます。また子供の姿のファラオがイシスによって与えられた王座に座っている場面も頻繁に描かれています。


イシスの名前が最初に現れるのは古王国時代の第五王朝で、名前と玉座が結びついています。葬祭に関係する存在でピラミッド文書の中には彼女の名前が8回現れます。


彼女の両親はオシリス神を生んだ大地の神ゲブと空の女神ヌトで、トート神によって360日に追加された5日間の四日目に誕生し、兄にあたるオシリスと結びついて戦と保護神であるホルスを誕生させます。


その他にもホルスの四つの魂の母親でもあり、その中の一人である肝臓の神イムセティの守り手でもあります。理想的な妻と母親として描かれ、自然と魔法、奴隷と罪人や、踏みにじられた人々、職人、の保護者、そして初な少女から貴族と統治者の祈りを聞き入れてくれます。


死者の書の中でのイシスの役割は、死者を守る女神と位置づけられています。


イシスを祀った最も初期の神殿はエジプト上部のフィラエ島で、重要な儀式センターのはデルタ地域のベヘベイト・エルハガルの寺院でした。


女神イシスの血 ティエト

女神イシスに関連するシンボルはティエト tiet or tyet と呼ばれる図形で、福利または生命を意味します。永遠の生命を象徴するアンクが変形した形で、イシスの結び目、イシスのバックル、または、イシスの血とも呼ばれます。ティエトのアミュレットは赤い木、赤い石、赤いガラスで造られています。


アンクの十字を形づくる横棒が蝶蝶結びで結ばれたように垂れ下がっている ことから、永遠の命、または〝復活〟を意味すると解釈されています。



ファラオの来世

古代エジプト人の信仰の中で最も大きな位置を占めていたのが、死後の世界で神々に迎え入れられて再生し、永遠の命を授かって生きることでした。 ファラオ達は死んだ後に来世で蘇り、神々から永遠の命を授かるためには、肉体を保存しておく必要があると考えていたので、死んだら肉体に防腐処理を施し、ミイラ化して保存するという習慣が発達していきます。その謂れになっているのが創造神の誕生と再生、そして冥界の神オシリスの死と再生の神話です。


古代エジプトのファラオ達は、死んだの後の〝生命〟を確実なものとして保証するための様々なステップ、永遠の命を授かるための準備を怠ることはありませんでした。エジプトの大地と人々を生き神様として統治するファラオの王冠を授かった瞬間から、まるで時間と戦うかのように自らの死の準備、ミイラを納めた棺を安置する墓と、死んだ霊のために儀式を行う葬祭殿の建設を始めています。


初期のファラオ達はピラミッドの中の部屋を墓として選び、ピラミッド時代が終わると、崖の側面にある入り口からトンネル形式で切り崩して通路を掘り進め、その最も奥に自らのミイラを納めた棺の部屋を造りました。それは地下世界へ降りていく行程を比喩しているのと同時に、先が見えないほど延々と長い通路はミイラを守るための目的もあったのです。


そして墓の中には死後の世界で必要になる総てのもの、生前に使っていた神々を奉る小さな寺院、神具、宝飾品、馬車、木造の船、家具や寝具、日常の生活に必要な品々などが綿密に揃えられています。


ミイラにされたのはファラオやその親族だけでなく、王族に関係していた人々や、飼い猫もミイラにされています。雌ライオンの頭をした女神バステトが信仰されていた古都ペルバスト(ブバスティス)には巨大な猫の墓があります。猫は冥界で飼い主と一緒になって来世へ旅すると考えられていたのです。猫も故人の扱いと同じように餌が必要と考えられていました。


ファラオの生前の栄華と死後の世界への出発を永遠に記憶するための準備と、ミイラ処理と埋葬の儀式、墓の近くに建立された葬祭殿での儀式は、長い歴史を持つ葬祭団によって行われました。


儀式の目的は故人が来世で恩恵を授かるためですが、場合によっては憤った霊や、悲しむ霊をなだめるためにも行われました。一般的には親族によって行われていましたが、財力のある人々はお金を支払って神官を雇って儀式を行わせています。


死後の世界のことを考えたのは仏教圏の文明だけではなく世界中にみられるものです。死と死後の世界での再生を取り巻く宗教的な教えと、その実践の中心的な位置にあったのが葬祭の儀式でした。古代エジプトだけでなく、輪廻転生が説かれている日本を含めた仏教圏、古代ローマ、ギリシャ、イタリア半島、メソポタミアなどの文明圏にもみられる習慣です。


仏教の始祖として信仰される釈迦族のゴータマ・シッダルタが生まれたのは紀元前7世紀から5世紀とされています。釈迦の教えは、精進を積んで覚醒することによってカルマを解消し、黄泉の世界での審判を潜り抜け、輪廻転生のサイルクの輪から解脱して神々の世界へ迎え入れられることです。そしてこれは古代エジプトのファラオ達が持っていた宗教的な世界観と全く同じものです。


古代エジプトの輪廻転生のアイデアとされるピラミッド文書は、古王国時代、紀元前2494年頃から紀元前2345年頃です。さらには、紀元前32世紀の終わりから紀元前31世紀の初めにアドビスを治めた、エジプト王朝誕生前のファラオ、カー王の墓から出土したガラスの破片には、転生のシンボル、来世へとファラオを導く〝ホルス神が留まる箱〟の原型「セレク serekh」が描かれています。ここを輪廻転生のアイデアの出発点とするなら、紀元前3000年の古代エジプトには来世への旅という世界観が存在していたことになります。輪廻転生の世界観は仏教圏で生まれたのではなく、古代エジプトが発祥の地だということです。日本人の主な宗教として広まっている仏教の原型は、シッダルタが育って悟りを開いた地ではなく、紀元前3000年前、またはそれ以前の古代エジプトなのです。


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